研究活動

研究活動

2015年度 グループ2ユニットA 第3回研究会

報告題目テランガーナ州における仏教運動の展開
開催日時2015年11月9日(月)15:00~17:00
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
報告者ボーディ・ダンマ(僧侶,全インド仏教青年連盟会長)
コメンテーター佐藤智水(龍谷大学人間・科学・宗教総合研究センター研究フェロー)
参加者39人

【報告のポイント】

 ボーディ・ダンマ氏は,現在,インド南部のテランガーナ州で本人が指導者となり進めている仏教運動の詳細について報告した。報告を通して,アンベードカルが開始した新たな仏教運動の一脈が,どのような問題に直面しながら展開しているのかが明らかにされた。

【報告の概要】

 ボーディ氏は,2000年前後から現在まで,インド南部の5州で広く布教活動を展開してきた。特にカルナータカ州ビジャプールに建立した寺院を拠点にし,僧侶の養成や信徒の育成を行ってきた。5,6年前より同寺院を出て,新たにテランガーナ州のアディラバードにて仏教改宗運動を進めている。今回はその現状について詳しい報告がなされた。

 氏が広めようとしているのは,アンベードカルがインドにおいて復興した,ダンマを基調とする釈尊の仏教である。1956年,アンベードカルはいわゆる不可触民の解放を目的として,仏教改宗運動を開始した。自身も不可触出身であるボーディ氏もまた,若い頃からカースト制度のもとで差別を被っており,自らが受けた差別から自由になるために,アンベードカルが提示した釈尊の教えに目覚めた。一方で,氏は日本の臨済宗の寺院でも長年修行を積んできており,日本の大乗仏教をインドに伝えるという意志も持っている。

 氏の現在の活動の中心地となっているテランガーナ州は,2014年6月にアーンドラ・プラデシュ州から分離独立した。同州はおおむね貧困地域であり,農業も産業も未発達の状態である。「レッディ(Reddy)」と呼ばれるシュードラの人々が,政治的に大きな力を有しており,政治経済的には後進地域である。

 ボーディ氏は,同州のアディラバードにおいて布教活動を開始した。氏が当地で演説を行うと,一度に数千人の人々が集まった。2009年9月から10月にかけては,村から村を歩いて改宗運動を行い,大歓迎を受けた。改宗のため,アディラバードの広場には1万人もが集まった。人口約273万人の当地において,既に約8万人の人々が仏教に改宗しており,そのうちのほとんどが不可触民である。氏はまた,支援を受けて市の郊外に土地を購入し,禅堂を建立した。宿泊施設も建て,誰でも修行と学習のできる環境を整えた。

 現在,インドでは徐々に熱心な仏教徒が増えてきており,寺院も建立されている。しかし,その指導者となるべき僧侶の育成はまだ不十分であり,信徒に教えがしっかり伝わっているとは言えない状況である。こうした点は,歴史をさかのぼれば,アンベードカルの悩みでもあった。彼は社会的な活動のできる僧侶の不足を憂慮し,インド仏教が発達していく上で必要なものとして,プロテスタント的な宣教活動と,日本の妻帯僧(Japanese married priest)に可能性を見ていた。ただし後者については,アンベードカルの真の意図がどのようなところにあったのか,やや不可解なところもある。

 ボーディ氏は,現在,社会活動の一環として,托鉢を続けている。僧侶が常に民衆と交わり,一緒にお経を唱え,それを通して仏教や僧侶とは何かを理解してもらうためである。また,氏は,寺院における女性たちの活躍に大きな可能性を見ている。男性が,お互いのエゴや体面で争い,寺院の発展の阻害になっているのに対し,女性は宗教に対する純真な思いが強く,寺院での活動に熱心に取り組んでいるのである。ただし,インドは男性社会であるため,女性の行うことに対しては,多方面から文句が出てくるという困難もある。

 氏が信徒たちに対する指導の基本にしているのは,アンベードカルが釈尊の人生と教えについて平易に書いた,『ブッダとそのダンマ』である。同書を中心にして,勉強会を毎週行っている。さらに,禅塾において貧しい家庭の子どもたちを預かり,学校に通わせながら,仏教の指導もしている。今後もこうした活動を継続しつつ,インドに仏教を広めていくつもりである,と氏は最後にしめくくった。

【議論の概要】

 佐藤氏は,インドの役所にヒンドゥー教徒として登録すると有効になる低カーストの人々に対する優遇制度について,他州と同様にテランガーナ州でも,仏教徒として登録するとこの制度からは除外されるのかを問うた。ボーディ氏は,テランガーナ州でも同じであり,そのため現状では,優遇制度から外されないよう,仏教徒ではなくヒンドゥー教徒の不可触民として登録する人が多いと答えた。ただし,機が熟してくれば,いずれ仏教を全面的に出す運動を起こすべきであると論じた。

 聴衆からは,テランガーナ州ではかつて共産主義の影響が大きかったが,現在はどうなのかという質問や,アンベードカルが日本の妻帯僧を評価していたことの理由などについて質問があった。前者については,共産主義は衰退したが,ナクサライト(インドの極左武装組織)の動きがあり,これは現状改革を目指す運動として,仏教のほうに流れてくる可能性もあると指摘された。後者については,アンベードカルは実際に日本を訪問したことはなく,日本で妻帯僧が社会的に活躍しているという話を聞いて,これを評価したのだろうと述べた。また,妻帯僧に対するアンベードカルの評価については,ボーディ氏としても今後のインドにおける仏教運動において改めて検討していきたいと語った。

※共催:龍谷大学現代インド研究センター(RINDAS

【文責】アジア仏教文化研究センター

DSC_5083.JPG

このページのトップへ戻る