研究活動

研究活動

2015年度 グループ2ユニットA 第4回研究会

報告題目青少年の倫理問題に答えるタイ仏教
開催日時2016年1月15日(金)13:15~14:45
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
報告者K.プラポンサック(2015年度BARC公募研究員,龍谷大学・同志社大学・佛教大学非常勤講師,タイ国タンマガーイ寺院大阪別院住職日本本院住職補佐)
ファシリテーター若原雄昭(龍谷大学文部教授)
コメンテーター藤 能成(龍谷大学文部教授)
参加者20人

【報告のポイント】

 国民の大半が仏教徒であるタイにおいて,現在,青少年の道徳を改善するためのプログラムを,仏教界が実施している。本報告では,報告者によるタイでの現地調査に基づき,そのプログラムの実態と成果が明らかにされた。

【報告の概要】

 プラポンサック氏は,現代のタイで展開されている,仏教に基づき青少年の倫理問題に応答するためのプロジェクトである,V-Star(Virtuous-Star,善行の星)について報告した。

 現在,タイでは青少年の道徳の劣化が問題となっている。その背景は大別して3つあり,インターネット依存症,家庭問題,そして夜遊びと危険ドラッグである。タイ政府の統計データによれば,近年,若年層のインターネット使用において,オンラインゲームとSNSの占める比率がかなり増えつつあり,それが原因の不登校も増加している。また,青少年の生活時間のうち,個人で過ごす時間の割合が増えており,家族と過ごす時間が減ってきている。さらに,クラブでの夜遊びや危険ドラッグの使用のほか,喫煙と飲酒も目立ってきている。

 V-Starのプロジェクトは,こうした社会的な問題を解消し,青少年を更生させるために,IBS(International Buddhist Society,国際仏教会)を母体として立ち上げられた。プラポンサック氏は,2015年の11月から約1ヶ月間,現地で同プロジェクトの実態調査を行った。

 V-Starは,2006年から現在までのあいだに,6000近くの学校(日本でいう小学校から高校まで)が参加する,大規模の事業となっている。2014年5月のタイでの軍事クーデター以降,集会活動等への規制が進められたこともあり,参加校はやや減少傾向にあるが,それでも依然として活発である。

 V-Starの具体的な実践としては,「日常」「活動」「学習」の3つが中心となっている。「日常」とは,生活改善のプログラムであり,起床してから学校や職場に通い就寝するまで,生活上のひとつひとつの作業を丁寧にこなすことを目指す。善行のための十の指針が示されており,その指針に従った実践を行い,また個々の実践の内容を細かくメモし続けていくことで,個人の性格が改善されるという。

 「活動」とは,布薩日に僧侶に布施することや,雨安居明けの法要への参加のほか,様々な社会貢献など,幅広い活動を行っていくことである。「学習」とは,仏教の知恵について繰り返し学ぶことであるが,なかでも,年に1度開催される大規模の特別な集会は,注目に値する取り組みである。

 この集会は,たとえて言うなら「仏教の万博」のようなイベントであり,3D映画の上映会も含めた多様な展示が行われている。3D映画では,釈尊の成道や地獄の描写などが現代の映像技術を駆使して表現されており,迫力満点である。ただし,映画の上映後にその場で瞑想を行ったり,感想文を書かせたりするなど,あくまで仏教の学習からそれないような工夫がなされている。

 プラポンサック氏はまた,学校単位での実際の活動状況を確認するため,チャンタブリー県のある学校での参与観察と,校長をはじめとする教職員や学生に対する聞き取り調査を実施した。その活動実態については,センターの2015年度研究報告書において,詳細な記述がなされている(http://barc.ryukoku.ac.jp/research/upfile/No.15-9.pdf)。

 最後に氏は,V-Starの実績を踏まえた上で,仏教によって青少年の倫理・道徳を改善することは十分に可能であり,また,彼らの倫理・道徳が不完全なものになっている原因は,彼ら自身だけにではなく,大人の側にもあることを指摘した。

【議論の概要】

 藤氏は,V-Starプログラムを理解するためには,日本とは異なる,仏教の社会的位置づけについて知る必要があるとして,タイにおける国民と仏教の関係性,特に家庭と寺院と学校とのつながりや,V-Starを運営している組織の詳細などについて質問した。プラポンサック氏はこれに対し,タイでは幼少期には寺院によく通い,瞑想や読経も慣習的な文化となっているが,昨今の学生や社会人においては,仏教との距離ができていることが多く,そのため今回紹介したような,学校(公立・私立両方)での学生に対する仏教再教育のプロジェクトが取り組まれ始めている,と述べた。また,V-Starの運営母体であるIBSは,タンマガーイ寺院の信者などからの寄付を資金源としており,約400人のスタッフにより運営されていると回答した。なお,スタッフのうち僧侶は約1割であり,あとの多くは大学を卒業している一般の仏教徒である。

 タイの学校での仏教再教育をめぐる状況については,さらに若原氏が,学校で仏教を教えることに関して,教育行政上,問題になることはないのかを尋ねた。これに対しては,しばしば問題になる場合もあるが,それも一律ではなく,その時の政府の判断や個々のプロジェクトの内容に応じて様々である,とプラポンサック氏は答えた。

【文責】アジア仏教文化研究センター

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