研究活動

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2015年度 グループ1ユニットA 第2回研究会

報告題目大谷大学蔵『教行信証』に関する調査報告
開催日時2016年2月18日(木)13:00~14:30
場所龍谷大学大宮学舎清風館3階共同研究室301
報告者三栗章夫(龍谷大学RECコミュニティカレッジ講師,元浄土真宗本願寺派総合研究所上級研究員)
参加者25人

【報告のポイント】

 前回の研究会に続いて大谷大学所蔵本の調査報告である。また,奈良県の岸部泰彬氏所蔵本,三重県の中山寺所蔵本の調査報告を加え,本研究中心テキストである「文明本」との対校を通し,『教行信証』の流伝状況の一端を明らかにする。

【報告の概要】

 『教行信証』は坂東本に基づいた刊本が正応四年に発刊されており,以後の流伝本はこの正応四年本や西本願寺本の影響が見受けられ,「文明本」もその一つと考えられている。ただし,正応四年本自体は散失しており,書写系統を探るためには諸本の対校が必要となり,原本調査が行われた。以下,大谷大学所蔵の5冊の『教行信証』古写本の他,中山寺所蔵本2冊,岸部泰彬氏所蔵本3冊の計10冊について,「文明本」との対校を中心として報告が行われた。

・大谷大学所蔵本

 ①「暦応四年本(信本)」の奥書後の貼紙にある識語は,「文明本」の「教巻」および「化巻」末の奥書の抄録で,「文明本」の存在を示すものとして貴重である。選号と標挙の位置関係が「文明本」とは逆になっている。

 ②「延文五年本(化末)」には本文と同筆の奥書と異筆の奥書があり,異筆奥書に「一部六帖」とあることから,六冊本系統であったことが分かる。「文明本」には撰号があるが,当本には撰号がない。

 ③「文安六年本(証)」の表紙左下に「」(酉偏に隹で一字)とある(現在の福井県福井市免鳥町のことか)。山田文昭氏旧蔵。「文明本」が首題→選号→標挙となっているのに対し,首題の前に標挙を置いており,首題と撰号が一行に詰めて書写されている点が「文明本」と相違している。

 ④「室町時代中期本(七巻七冊・信のみ欠)」は「文明本」と同様の奥書があるが,記載情報量は「文明本」より少ない。数点の「文明本」との相違があり,先に調査した「浄興寺本」と共通している。「化巻」本のみ尾題の後に「愚禿親鸞」の撰号があり,「存蓮本」と共通している。

 ⑤「室町時代末期本(八巻八冊)」の「総序」・「教巻」の首題→撰号→標挙の位置関係は「文明本」と一致する。また,「文明本」では巻によって(「行巻」・「信巻」)不揃いな配列があるが,当本では「行巻」以下も全て整っている。

 ①~③は「文明本」の成立以前のものと位置付けることができる。④⑤については「文明本」に近い特徴を有しているため,書写時期については明確ではない。

・中山寺所蔵本

 ⑥「中山寺本(性海の奥書あり)(教・行・証・化本・化末)」の書写年代は江戸時代と推定される。「化巻」本の途中より別筆であり,高田慶長本(慶長五年書写)における慶忍の筆と推定される。

 ⑦「中山寺本(性海の奥書なし)(信本・証・真仏・化本・化末)」の書写年代は室町末期と推定される。「化巻」末の奥書は本願寺系八冊本(浄興寺本を除く)の奥書と行格・文句が全く同じである。

 「文明本」は題号・撰号・標挙の順序が不統一であるが,これら中山寺所蔵本は題号→撰号→標挙の順に統一されている。

・岸部泰彬氏所蔵本

 ⑧「延文五年本(証)」の奥書には書写年次だけの記載で「釈覚念」とある。題号→標挙・細註→撰号→本文の順で「文明本」と異なる。

 ⑨「性應寺旧蔵本(信末・証・真仏・化本・化末)」の奥書は「文明本」にも見られ,各巻尾には「性應寺」の朱角印がある。題号→撰号→標挙の順で「文明本」と一致する。

 ⑩「円海本(行・信本・信末)」の各巻頭の主題下に「圓海」の黒丸印があり,滋賀県円照寺の円海所持本と考えられるが,少なくとも二つの筆が存在しているようである。題号→撰号→標挙・細註の順序で整えられている。

 今回の大谷大学所蔵本等の計10冊の『教行信証』古写本の原本調査の結果より,専修寺蔵の高田本,福井県浄得寺の所蔵本等,新たに原本調査をする必要性が確認され,次年度に持ちこされた。今後の調査・研究の進展が待たれる。

【議論の概要】

 今回の報告を受け,鎌倉三本や正応四年刊本についての質疑応答が中心となり,坂東本,正応四年の刊本等の流伝関係を示した図表を作成すべきであるという意見が出た。

※共催:龍谷大学仏教文化研究所

【文責 】アジア仏教文化研究センター

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