研究活動

研究活動

2016年度 グループ2ユニットB 第3回ワークショップ

報告題目現代真宗とジェンダー―教団・寺院・女性―
開催日時2016年10月27日(木)13:15~16:30
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
報告者池田行信(浄土真宗本願寺派慈願寺住職)
横井桃子(関西学院大学社会学部非常勤講師)
コメンテーター龍溪章雄(龍谷大学文学部教授)
猪瀬優理(龍谷大学社会学部准教授)
参加者31人

■共催:龍谷大学仏教文化研究所

■報告者・題目:

池田行信(浄土真宗本願寺派慈願寺住職)

「私と寺族女性問題」

横井桃子(関西学院大学社会学部非常勤講師)

「地域にいきる坊守」

【報告のポイント】

 現代の真宗教団や寺院において,女性はどのように扱われ,また,どのように生きているのか。長年にわたり真宗教団の寺族問題を追及してきた本願寺派の僧侶と,寺院の現場で女性たちの声を聞き取ってきた社会学者が,それぞれの見解を述べ,議論を交わした。

【報告の概要】

 池田氏は,まず自分がなぜ寺族女性の問題にかかわるようになったのかについて説明した。氏がかつて本願寺派の日曜講師をしていた際,ある女性から「自分は子供ができないから離婚をしてくれと迫られており,悩んでいるが,どうしたらよいか」と相談された。氏はこれをきっかけに,龍谷大学の教員や本願寺の布教師が書いた女性についての本を複数読んだが,そこでは同じパターンの主張が繰り返されていたと言う。すなわち,「女性の幸福は結婚と子育てにある」ということで,念仏は付け足しでしかなかった。これでは上記の女性の悩みにはまったく答えられず,その無念の思いから,氏の真宗と女性に関する研究や活動が始まった。

 浄土真宗の聖典の一つである『観無量寿経』では,子供を産み育てる存在としての女性の問題が既に根源的に考えられており,そこには現代においてなお読み返されるべき思想がある。また,僧侶である親鸞が恵信尼と結婚したという事実には,同時代の常識的な発想を大きく相対化する,浄土真宗の教えの可能性が認められる。

 にもかかわらず,各地の真宗寺院の坊守(住職の妻)は,跡継ぎを産み育てることにばかり関心があり,日本の旧習に染まった考え方しかできていなかった。そこで,宗派の女性の意識を改めるべく,研修会を始めた。また,既存の「坊守会」を「寺族女性会」に改組し,「寺院に生活している女性」一般の参加を呼び込んでいった。こうした動きに対しては,今までのままでよい,性差別など問題しなくてよいという意見が,女性からも出されるなどの反発もあったが,現在も地道な活動が続けられている。

 これまでにも,住職資格の男女差別を解消し,総代・世話人に女性の枠を作り,あるいは「変成男子」の女性差別的な記述を含む和讃を退けるなど,差別をなくすための改革運動が進められてきている。今後はさらに,差別を容認するような教学理解を改めていくとともに,ジェンダー・イコールな教団を目指して,当事者間のネットワークづくりを進めていく必要がある,と氏は最後に提言した。

 横井氏は,マンガなどの大衆文化に見られる「寺の嫁」イメージとして,「幸せな専業主婦」あるいは住職を陰で支える裏方的な存在といったものがあることを確認した上で,そのようなイメージの妥当性について,本願寺派の住職配偶者の女性に対するインタビューを中心とした実証的研究に基づき検討した。なお,研究のフレームワークとしては,「宗教の社会貢献」研究やソーシャル・キャピタル研究を置いており,地域社会で「社会貢献」する主体とは誰であり,どのような役割を果たしており,また寺院を媒介としたネットワークが,女性にどのような利益・不利益を与えているのかという点を主眼としている。

 2013年に実施した調査の結果,住職配偶者の女性は,掃除や法要のしたくなどの裏方的な役割だけではなく,様々な地域社会活動にも参与していることが明らかになった。また,そうした活動の背景として,農村部の場合は,地域住民への協力が,地域社会の互酬性の規範や,「寺の嫁」に対する周囲からの監視・期待などにより成り立っていること,都市部の場合は,農村部とは異なりそうした規範や期待はほとんどなく,単に一地域住民として活動に参加している傾向が認められることがわかった。

 農村部のように,地域社会の潤滑油となることを期待される住職配偶者の女性の気遣いは,負担が大きく,そこからは「幸せな専業主婦」像は浮かんでこない。一方で,社会活動に参与しながらも,寺院では常に周辺的な役割を課される女性たちの立場は,不平等なジェンダー観によって規定されていると言える。「多文化共生」が求められる現代において,こうした固定的なジェンダー観を持続させていくのであれば,寺院や教団は時代の流れに置いていかれるのであり,こうした問題は批判的に自覚されなくてはならない。

【議論の概要】

 池田氏の報告に対して,龍溪氏より,寺族女性会のこれまでの活動を経て,女性達の意識などに変化はあるのか,また,差別を克服する教学の可能性について質問がなされた。これに対し池田氏は,活動が長年になるにつれ,当事者の積極性・主体性が弱くなる傾向があり,改めて意識のあるメンバーを発掘していく必要があること,また,教学面での改革についてはまだほとんど進んでおらず,全宗門的なコンセンサスをどう取っていくかが今後の課題であると答えた。

 横井氏の報告に対して,猪瀬氏より,現在では寺院内における男女の役割が多様化してきているが,それぞれの仕事や役割分担は,今後,どのように変わっていくのかとの問いかけがなされた。これに対し横井氏は,寺院の女性は社会貢献活動に参加していても,その活動が個人のものとして評価されず,寺院に付属のものと見なされる傾向があり,またその活動もケア的なものに集中する場合が多いという現状があり,この点が今後どのように変化していくのかが注目されると指摘した。

【文責】アジア仏教文化研究センター

DSC_7619.JPG

DSC_7649.JPG

このページのトップへ戻る