研究活動

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2017年度 グループ1ユニットB 第2回学術講演会

報告題目Mid-century Buddhist Engagements in America: The Berkeley Temple Newsletter 1939-1953
開催日時2017年7月3日(月)17:30~19:00
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
報告者Scott Mitchell(米国仏教大学院教授)
ファシリテーター嵩 満也(龍谷大学教授)
コメンテーター釋氏真澄(龍谷大学大学院研究生)
参加者14人

【講演のポイント】

 Scott Mitchell氏は,20世紀の半ばにバークレーの仏教青年会が刊行していた会誌を資料として,この時期の日系仏教徒がアメリカ社会といかに向き合っていたのかについて,特に日系二世による「アメリカ仏教」論に注目しながら明らかにした。

【講演の概要】

 Mitchell氏は,バークレーの仏教青年会の会誌『BUSSEI』の内容分析から,太平洋戦争の前後の時期に日系仏教徒が直面していた問題や,彼らの仏教やアメリカ社会に対する考え方や関わり方の推移について考察した。

 19世紀末に開始された日本から北米への移民を受け,この地域での真宗教団(移民の出身地は真宗地帯が主)による開教や寺院建設が進んでいった。1911年にはバークレーにも仏教協会が設立され,21年には同地に寺院が建立された。34年には個別に結成されていた複数の仏教青年会が,一つに統合されるに至った。同会では様々な事業が展開され,出版事業として会誌『BUSSEI』が刊行された。

 『BUSSEI』は,1939年から41年まで刊行され,戦時中の断絶をはさみ1950年に復刊の後,おそらく1960年まで年刊誌として続いた。Mitchell氏は,このうち13号分のデータを入手している。同誌はその記事内容から,4つほどの時期に分けることが可能である。

 第1期(1939~41)のそれは,寺院のニュースレターとしての性格が強く,寺院での具体的な活動の紹介などが主である。また日系二世をめぐる問題,とりわけ日系人に対する偏見や差別の問題に対する論考も掲載されている。第2期(1951~52)でも二世の問題は引き続き論じられているが,新たに世代間の文化(信仰)継承の問題が浮上してきている。一方,1952年に同地で仏教研究センターが設立されたこともあり,研究的な記事も増えている。また,哲学者のアラン・ワッツの影響力が顕著になったのも,この時期の特徴である。第3期(1953~55年)になると,日本への留学経験や旅行記などの記事が現れ,日米の文化差や,人種間の関係をめぐるより洗練された認識が示されるようになる。最後に第4期(1956~1960?)には,文学(詩など)や哲学に関する記事が中心になっている。

 同誌にほぼ一貫したテーマの一つは,「アメリカ仏教とは何か」という問題意識である。これは,北米の仏教団体において指導的な地位にあったゴールドウォーターがやや抽象的に問いかけたテーマであるが,突き詰めれば,仏教がアメリカ社会にどう適応できるか,そして同時に,仏教がアメリカ社会にどのような価値を提供できるかを問うている。

 戦前の『BUSSEI』の記事では,日系人は先祖が日本人だから仏教徒であり,その立場からアメリカ社会に貢献することで,日系仏教徒は東西文化の架け橋的な存在となりうる,といった意見が目立った。他方,戦後になると,日系人が仏教徒であり続けることの意味や,アメリカ社会における仏教に独自の貢献の仕方についての問いが,より深められている。仏教の独自性が説かれる際には,他宗教に比べての合理性や科学との親和性が強調されやすく,そこには仏教の近代的なとらえ方が見て取れる。なお,戦後の同誌で影響力の大きいアラン・ワッツは,冷戦下におけるオルタナティブな政治的価値を示す可能性を,仏教に期待している。

 こうした記事内容の推移の背後には,戦前における日系人(二世)に対する差別問題への対応から,戦後において,より主体的にアメリカ社会や政治への関わり方を問うことへの,問題意識の変化がある。加えて,世代の更新によって生じた,若者の仏教離れやコミュニティ離れという新しい問題もある。こうした問題は,文化的コンテキストの差異や変化のなかで,ある宗教実践がどう移り変わり,新たにどう受容されていくのかという,普遍的な事態の一例である。そして,アメリカの日系仏教というのは,そうした文化移行と適応の問題に常に直面してきたからこそ,今後も追求すべき重要な研究対象なのである。

【議論の概要】

 釋氏真澄氏は,今回検討されたバークレーの事例は,自身が研究してきた戦時中の強制収容所の日系仏教の事情とも共通する部分が多いと指摘した上で,バークレー以外の地域との相違点や,同地の独自性について質問した。これに対しMitchell氏は,他地域の事例についてはこれから検証していく予定であり,ロサンゼルスにおける曹洞宗の禅コミュニティの事例などが念頭にあると述べた。その他にも,フロアからは会誌の記事中にあらわれる教義の特徴や,「BUSSEI」(仏教青年会)という概念がアメリカに輸入された経緯,仏教を学ぶ際に用いられたテキスト等について質問があり,それぞれ議論が行われた。

【文責】アジア仏教文化研究センター

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