研究活動

研究活動

2017年度 グループ2ユニットB 第1回国際ワークショップ

報告題目越境する日本の女性仏教徒
開催日時2017年7月17日(月)14:00~17:00
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
ファシリテーター那須英勝(龍谷大学教授)
コメンテーター川橋範子(名古屋工業大学教授)
参加者40人

ヴィクトリア・吉村(浄土真宗本願寺派玄武山正念寺坊守)

"Female, Foreign and in the Firing Line: The Adventures of a British female Buddhist Priest in Rural Japan"

パトリシア・宇宿(サンファナンドバレー本願寺仏教会開教使)

"Transcending Dichotomy: a Perspective from America"

通訳  :川本佳苗(龍谷大学大学院)

趣旨説明:本多 彩(兵庫大学准教授)

【報告のポイント】

 いずれも寺院にかかわる女性であり,また国際的な活動を行ってきた報告者らによって,現代の女性仏教徒が経験している越境的な状況や,そうした越境によって生じてくる問題や可能性についての議論が行われた。

【報告の概要】

 ヴィクトリア・吉村氏は,イギリスに生まれ,日本に来てから後,宮崎県の高千穂にある浄土真宗本願寺派寺院の僧侶と結婚し,同寺の坊守となった。その後,得度して僧侶となり,さらには教師資格を得た。高千穂は宗教的には神道が中心の土地であり,仏教はやや周辺的である。のみならず,氏は外国人でありかつ女性の僧侶という,日本の仏教界における周辺性を二重に帯びており,それゆえ数々の困難に直面してきた。

 氏の属する寺院は,檀家数が550件であり,主な業務は葬式と法事である(月忌参りの習慣は同地にはない)。それ以外に,英会話学校を開催したり,民泊を実施したりもしている。

 同寺での暮らしを続けるなかで,氏は少なからず差別的な扱いを受けてきた。長男が生まれた際には,「髪の黒い子が生まれてよかったね」と言われた。次男を産んだ後に得度し,住職である夫のパートナーとして仕事ができるようになったのは喜ばしかったが,地域の他の僧侶たちからは,困惑を持って受けとめられた。夫が大病を煩ってからは,法務を一手に引き受けることになり,教師資格も取得したが,これに対しても他の僧侶から疑問視された。それだけでなく,寺院の檀家のなかにも,女性や外国人が法務を行うことを評価しない人々がおり,こうした差別的な扱いは今もなお続いている。

 パトリシア・宇宿氏は,アメリカにおける浄土真宗の僧侶(開教使)や信徒たちの現状について,自らがかつて実施したアンケートやインタビュー調査の結果をもとに報告した。日本の寺院が家族単位で運営されているのに対し,米国仏教団(BCA)が組織する寺院では,必ずしも寺院出身ではない開教使たちが,地域ごとに配属されて布教活動を行っている。そうしたアメリカの真宗寺院における女性たちの位置は,近年のアメリカの社会構造の変化を受けて,以前とは大きく変わりつつある。

 アメリカでは20世紀を通して女性の地位が向上しており,現代では職業選択の自由や可能性も,男性と同等に認められてきている(ただし男女間の所得格差はある)。だが,アメリカの仏教界において,なおも残る女性への差別意識の存在に気づいた氏は,2002年に寺院の女性に対する認識等についての調査を行った。結果,どの世代でもほとんどの人が,女性が僧侶として活動することを肯定的に評価しているが,他方で,寺院内での性別役割分業を肯定する人も少なくないことが判明した。その理由として,日本出身の僧侶が「日本的」な価値の持続に影響を与えている,という見解などが得られた。

 しかし,15年後の現在では,こうした状況は劇的に改善されている。BCAで指導的な地位に就く女性が増えており,たとえばロサンゼルス別院の会長は女性である。女性の得度者の割合が増加し,開教使も数も少しずつ増えてきている。こうした変化は,教団による働きかけではなく,世代の更新のためという側面が強い。

 いずれにせよ,こうして女性の地位が向上した結果,誰もが平等な立場で念仏の教えに生きるという,真宗の本来的なあり方を実現させやすい状況が整いつつある。一方で,女性仏教徒という,かつてのマイノリティは,現代の他のマイノリティ(LGBTQなど)の人々に共感する能力も高く,彼らの抱えている問題に,共に向き合っていく可能性もまた期待できる。

【議論の概要】

 川橋範子氏は,今回の2つの報告は,仏教界において女性が境界を越えたときに生じる性差別の問題を,鮮やかに明らかにしていると述べた上で,そうした性差別を克服できなければ,浄土真宗は民族仏教で終わり,普遍性を獲得できないと指摘した。また,仏教界の女性に対する差別的な発想は,研究者の側にもあるとし,多くの男性研究者は男性僧侶の活動しか視野に入っていないことを批判した。

 その上で,吉村氏に対しては,差別構造の根強い地方寺院の現場で,氏がどのような生き残りの戦略をとってきたのかを,宇宿氏に対しては,アメリカの仏教界に残っていた性差別の意識には,日本文化だけではなく,アメリカの宗教文化(ユダヤ・キリスト教の伝統)も影響しているのではないかと問うた。

 これに対して,吉村氏は,若い頃はとても苦労の多い日々を送ってきたが,年齢を重ねるにつれ,自分の意見が通りやすくなったことや,あるいは苦労を経験したからこそ得られる幸せもあることを述べた。宇宿氏は,近年の意識調査によれば,アメリカ国民はいまやそれほど伝統宗教を受け入れておらず,人々は同国の文化的多様性のなかから仏教を選んでいるのであり,伝統的な宗教文化からの影響はあまりないと思われると回答した。

【文責】アジア仏教文化研究センター

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