研究活動

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2017年度 グループ1ユニットA 第2回学術講演会

報告題目中世における天台論義書の一系譜―『阿弥陀房抄』を中心に―
開催日時2017年11月2日(木)16:45~18:15
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
報告者長谷川裕峰(叡山学院講師)
コメンテーター道元徹心(龍谷大学理工学部教授)
参加者14人

【報告のポイント】
 叡山の初期から天海に至るまでの天台論義の成立・内容について、宗厳の『阿弥陀房抄』を中心として、その一系譜が明らかにされようとしている。この綿密な研究においては、多数の同時代史料が用いられ、『阿弥陀房抄』以外の史料も正確に読み解いていく研究手法にも注目される。

【報告の概要】
 平成29(2017)年度科研費(研究活動スタート支援)において、研究課題名「『阿弥陀房抄』および延暦寺論義書の基礎研究―学僧ネットワークの系譜―」が採択され、この度の講演会はその中間報告という位置づけである。そもそも、平成27(2015)年度科研費(奨励研究)において、比叡山文庫所蔵「山王礼拝講」関連文書の悉皆調査をおこない、延暦寺の論義法要に関わる有効な史料群が多数現存し、その大部分が未翻刻の状態にあり、本格的な整理・翻刻作業の必要性が明らかとなった。このことが上記研究課題の着想に到った経緯である。

 『阿弥陀房抄』は永仁4(1296)年頃の成立と考えられ、『廬談』より古い未翻刻史料群である。撰述者は宝地房証真の孫弟子である宗厳と比定され、文治6(1190)年~延応2(1240)年と、弘安6(1283)年~永仁4(1296)年の宗厳が探題を務めた14年間の竪義の記録である。特徴は数多くの仏教経典や祖師の文章を引用し、文献主義の立場から論拠を明示している点である。本史料群は本学思想・口伝法門が隆盛を極める中世において、文献主義に立つ証真学派の教学を確認できる貴重な作品であり、仏教学・天台学の学匠による論文集という性格を持つ。

 また、経典の本文について論じ、他宗の教義と比べて自宗の義を立てる「義科書」に『阿弥陀房抄』は分類される。義科数は19あり、『(千観内供)十六義科目録』(平安中期)の16義科と『廬談』(南北朝期)の22義科の中間過程に位置すると考えることができる。天台教学の最高権威者である探題の選定した試験問題に対し、受験者との間で行われた質疑応答が、原稿化されたものが『阿弥陀房抄』であり、そのため、同じ論題であっても受験者の解答に応じて異なる質疑が展開し、数多くの論文集が作成されたと推測されるのであり、未だこの成立については不明なままである。

 中世の天台教学を知る上で貴重な論義書である『阿弥陀房抄』は、本史料群は第一級史料であるにもかかわらず、基礎研究がほとんど進んでいない。『続天台宗全書』編纂事業では、全体像が計り知れないという理由により本史料群は見送られ、『廬談』の整理・翻刻が先行した経緯をもつ。南光坊天海が集積した論義書群を基盤とし、現行の広学竪義における論草が作成されたが、その過程で『阿弥陀房抄』も『廬談』と共に重視されていた痕跡があり、法華大会の教学的系譜を再検討し、その思想的意義にも言及できるという射程を有する。また、鎌倉初期は慈円による勧学講や新礼拝講が創始され、天台教学の振興が目指された時期だが、当該期における天台論義の位置づけは不明瞭である。この研究は全国の学問寺院における論義書の書写実態を実証的に分析することにつながるとも期待されている。

 各所に分散した『阿弥陀房抄』の博捜・整理・翻刻・比較検討整理を通し、「宝地房証真学派→『阿弥陀房抄』の成立→談義所における相伝→天海義科抄→広学竪義の論草」という、天台論義書の系譜を解明し、証真学派(文献主義)の教学史的位置づけの検討が本研究の意義と、この度の報告を締め括った。

【議論の概要】
 証真教学の継承については親鸞の教学形成にも関係する可能性があり、その面でも重要な研究課題として認識すべきことである。しかし、全ての算題を精査することは難しいため、六即義の「草木成仏」や仏身に関わる内容に見当をつけ、いかに論証されているかを考察していく。また、『法華玄義』からの五味義についても未研究な状態であることより、これらを今後の研究対象として見通しを立てており、継承問題の解明を進めていく。

【文責】アジア仏教文化研究センター

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