研究活動

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2018年度 グループ2ユニットB 公募研究成果報告会

開催日時2018年12月7日(金)15:00~16:30
場所龍谷大学大宮学舎西黌2階大会議室
報告者宇治和貴(筑紫女学園大学准教授,2018年度BARC公募研究員)
ファシリテーター那須英勝(龍谷大学文学部教授)
参加者13人

【報告のポイント】

 LGBTをめぐる議論や施策に大きな注目が集まるなか,仏教は現状にどう向き合うべきか。こうしたテーマにいち早く取り組んできたキリスト教のクイア神学を参照しつつ,クイア仏教学の構築をめぐり検討がなされた。

【報告の概要】

 近年,セクシュアル・マイノリティの人権を守る国際的な潮流のもと,LGBTという用語が急速に広まっている。一方,内閣府の「自殺総合対策大綱」では,セクシュアル・マイノリティの自殺念慮の割合の高さが言及され,当事者が人生の様々な局面で抱える困難や,メンタルヘルスの問題の解決に向けた対策が急務である。特に,学校教育の現場が当事者にとっては困難を経験する最たる場であり,教育関係者の役割が重要となる。

 たとえば,国際基督教大学では,「LGBT学生ガイド」を第8版まで改訂しながら発行している。108の「やれることリスト」が並び,当事者性に最大限配慮した提言書である。同大学のキリスト教精神に基づく取り組みであり,そこでは性別二元論の克服が目指される。

 LGBTについては,「クイア」という概念による考察が行われてきた。クイアとは「奇妙」「異様」という意味である。もともとは侮蔑語であったが,当事者が逆手にとって意味内容を転換し,学問的な「クイア」概念を提唱した。それは,異性愛規範に対する批判と抵抗を目的とした,思想や実践である。単に学問的な概念であるにとどまらず,アクティビズムとも密接にかかわる。総じて,性に関する諸現象について,差異に基づく連帯,否定的な価値の転倒,アイデンティティへの疑義などに基づき考察する学問であると言える。

 クイア概念を応用したキリスト教界の運動が,クイア神学である。パトリック・チェンの『ラディカル・ラブ』などの著作がある。セクシュアリティやジェンダー・アイデンティティの二項対立的カテゴリーに挑戦し,その脱構築を試みるキリスト教神学だ。クイア神学は,当事者たちの経験をもとにして,絶えず新たな解釈を生み出していく神学を構築する営みとしてある。

 では,仏教の場合はどうか。仏陀は,カースト制度に支配されたインドで,生まれ・出自による差別を根底から否定した。なぜ,そうした視点を獲得しえたか。背景には,仏教の基本的な原理である,無常と非我の考えがある。仏教には,マイノリティへの差別状況を批判するまなざしがあり,差別を我執の産物として否定し,平等なる命の存在への目覚めを導く。

 とはいえ,理念的には平等主義の仏教界にも,現実としての差別が厳然としてある。現実的な状況のなかで,差別されている存在をどう救うか。親鸞の思想に解決の糸口がある。親鸞は,どのような存在でも,信心を得れば如来に等しい存在となり,必ず仏になることが定まって,救われた存在になると主張した。同時代に下類とされていた被差別民が「われら」と表現され,すべてのいのちとの共存・尊重への志向があった。したがって,クイア研究への接続が可能であり,またその研究は,親鸞思想の普遍性の解明にもつながる。

【議論の概要】

 報告へのフロアからの質問として,クイアという概念に含まれる当事者性どう考えるか,仏教の教義をマイノリティの視点から再構築するのがクイア仏教学だが,報告での仏教理解は従来と変わらないのではないか,最終的な着地点はどこにあるのか,などが問われた。これらに対し報告者は,クイア研究は当事者でなければ参加できないわけではなく,調整役的な参加もまた当事者の一種であること,具体的な現場での差別をどう乗り越えるかがクイア仏教学の目的だと応じた。

【文責】アジア仏教文化研究センター

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