公募研究

公募研究

クイア仏教学の構築

近年、LGBTという言葉をよく見聞きする。Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderの頭文字を並べた言葉で、同性愛者、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダーなど、セクシュアル・マイノリティの人々を指して使われている。日本でこの語が広まった背景には、同性同士の結婚やパートナーシップ制度にかんする話題だけでなく、1990年代以降からの性同一性障害に関する関心があると考えられる。こうした人びとの割合は、総人口の7~8パーセントという数字と共に、日本おいてはセクシュアルマイノリティ当事者が被抑圧的状況があると報告がされている。

そうしたなか、本研究で構築しようとする「クイア」理論とは、森山至貴によれば、①差異に基づく連帯の志向、②否定的な価値づけの引き受けによる価値顛倒、③アイデンティティの両義性や流動性に対する注目、の3つを主な内容と指摘されている。当初、「クイア」という言葉は、男性同性愛者やトランス女性に対するかなり暴力的な侮蔑語として英語圏で用いられていた。この否定的な侮蔑語を、あえて自ら用いて、その内実やイメージを定義する力を当事者に取り戻そうとする思考形態そのものを「クイア的思考」とされている。現在は、「クイア」の対象となる学問の幅を広げてきており、セクシャルマイノリティ、あるいは少なくとも性に関する何らかの現象を、差異に基づく連帯・否定的な価値の顛倒・アイデンティティへの疑義といった視座にもとづいて分析・考察する学問だと定義できるようである。

すでにキリスト教神学においては、パトリック・チェン(『ラディカル・ラブ』工藤万里江訳2014)が、性的少数者の視点から試みられた新しい神学の確立を試みて、伝統的な三位一体論の枠組みを大胆に読み替えて「クィア」なものとしての福音の本質を鮮明に打ち出す作業を行っている。

本研究においては、こうした「クイア」研究が社会的に必要とされている現状をうけて、仏教研究のなかに「クイア」的思考・理論を用いることで、差別的状況下にあるセクシュアルマイノリティ当事者を仏教教義のなかで、論理的に救いの対象として位置づける、クイア仏教学の構築を目的とするものである。

宇治和貴(筑紫女学園大学准教授)

このページのトップへ戻る